【第二章/注文服を攻略する-③仕立ての要素-2.型紙の質/型紙技術】

 

「型紙の差ってなんですか?」という問いがよくあります。

 

型紙(パターン)は仕立ての設計図です。

型紙は二種類存在します。

 

型紙.1はフィッティングを行う前に存在する型紙です。

型紙.2はフィッティングを行った後にあなたに合わせて出来た型紙です。

 

 

 

 

【型紙.1】

クラシックな注文服の型紙には暗黙の制約があります。

例えば、スーツのデザインをイメージしてみてください。

 

必ずラペル(衿)があって左胸にポケットが一個ついていたり、

ジャケットの袖は大きな二枚の布で出来ていたり

どれも同じような見た目でパっと見た時に全部同じスーツに見えますよね?

(よくよく見るとラペルのデザインや肩の作り方など細かい違いがあり、見る目がついてくるとパっと見ただけでだいたいどこのスーツかわかるようになるのですが)

 

一定の型紙数で設計しなければいけないというルールがあります。

ただ、この型紙の制約に関しての明確な定義はありません、

 

あなたがもしその線引きに疑問を持ったなら、町や駅でスーツを眺めてください。

「ん?なんか変わったデザインのスーツだな、これはスーツなのか?」

違和感をもった時点でそのスーツの型紙はクラッシックスタイルの線引きの外へ出ていると言えます。

 

みなさまはNEWSを見て世界の各国要人のスーツに違和感をもたないでしょう。

そのスーツの型紙が線引きの内側にあるからです。

 

その線引きの内側で、仕立て屋が試行錯誤しオリジナルな型紙を作っています。

 

注文服市場は世界的な盛り上がりを見せております。

近年で特に人気を集めているのがナポリ(伊)、フィレンツェ(伊)、サビルロウ(英)あたりでしょう。

 

仕立てを深く知れば、これらを地域名でひとくくりに出来ないほど同じ地域でも型紙に違いはあるのですが、その地域でそのデザインが馴染んで買われ、その地域でデザインを学びその地域で独立した仕立て屋が多いのは自然の傾向です。

結果として、その地域ごとに似通った型紙の特徴があるのも事実です。

 

また、外国人が異国で修行し異国から持ち帰った型紙や、企業が注文服市場で人気のあるイギリス的な型紙、イタリア的な型紙を研究し作った型紙なども含めて、全ての型紙にルーツがあります。

 

これらをTAILORS_MEDIAのSPECシートでは“型紙の由来”として地域の名前で表記しています。

 

型紙の由来からくる基本構造に対して各仕立て屋がラペル、フロントカット、ポケットなどの大きさ、角度、カーブ、位置など“これがいい”というバランスで設計した型紙が存在します。

 

このオリジナルな型紙がここでいう型紙.1です。

 

各仕立て屋のオリジナルな型紙.1で設計した仕立てがハウスモデルという事です。

 

皆様お耳にした事があるでしょうか?

クラシコモデル、ナポリモデル、フィレンツェモデル、サビルロウモデルなどなど、違うメーカーのハウスモデルで同じ名称になっている場合がありますがよく見ると全て違う形をしています。

これがその理由です。

同じ名称でも味に違いがある、なんだか料理の世界に似ていますね。

 

ここで重要ポイント!

【注文服のデザイン選択と美しさの本質について】

 

あなたがアイテムを注文する際に、ディティール(細部)のデザイン選択をする場面があります。

シンプルなクラシックスタイルの注文服に関してはデザインの選択肢が数種類しかありません。

 例えば、この図のようにスーツの注文においてデザインを選択する箇所は多かれ少なかれこの程度です。

またその各所のデザイン候補が基本的に2~3種類しかないので簡単な事です。

 

「ポケットはどうしますか?」

「衿の形はどうしますか?」

 

などなど、注文初体験の方にとっては難しいかもしれませんが、担当者から説明をうけるので誰でもすぐに理解できるようになります。

ここではどういうデザイン変更ができるか?という説明をしません、なぜなら注文服のデザインの本質は別にあるからです。

 

結論から言うと、

デザイン変更よりデザインの個性を理解していただきたいのです。

 

例えば、あなたはどの仕立て屋に行っても腰ポケットのデザインをパッチポケットに指定できます。

 

しかし全てのハウスモデルのパッチポケットは違う形をしています。

パッチポケットのデザイン(形、位置、角度)と縫製の仕方が全く違うのです。

 

ここに仕立てを理解する本質があります。

 

近づいて“デザイン細部への拘り”を見て、遠くから“デザイン全体の調和”を見る。

こうして仕立て(ハウスモデル)を見極めていただきたいのです。

 

 【攻略ポイント!】

下のイラストを確認した上で、ご自身の用意したスーツを見ながら注文服CHECKシート.1(スーツ)の左上スーツ(フィッティング前)のイラストにだけマークを入れて下さい。

 

 

 

 

注文服経験者の方で、各所のデザインを選べる事が注文服の良さと思われている方、それはそれで素晴らしいのですが、このような視点でデザインを判断するクセをつけるとあなたにとってベストなハウスモデルにいつか辿り着けると思います。

初心者の方はデザインを変更するというよりも、そのハウスモデルの基本設定の美しさで判断するクセをつけると良いと思います。その積み重ねで仕立ての差が分かり、あなたにとってベストなハウスモデルが見つけられるようになるからです。

 

ここまで型紙.1について説明してきました。

少し難しく感じた方には申し訳ございません、

よくわからない時は難しく考えなくても大丈夫です。

 

あなたがそのハウスモデルを見て感じる印象、サンプルがあれば着させてもらって感じる印象。

直観的に好きか嫌いか?これが最初の決め手でいいと思います。

 

注文服なので、デザインに関して大きくする小さくするなどリクエストができる場合がありますが、まず初見の印象が良くない場合はその仕立てをやめる。

印象がよければ細かくリクエストせず一着注文するのが建設的でしょう。

 

また、ハウスモデルによっては極端に大きい小さいといったサイズの違いに対応していない場合がありますので、サイズ制限に関しては担当者にお問い合わせください。

 

 

 

【型紙.2】

担当者が型紙.1(ハウスモデル)とあなたを合わせてズレている部分を見つけ、そのズレを調整し変化させた型紙が型紙.2です。

 

このズレを確認する工程がフィッティングです。

調整する時の視点は二つあります、

趣向的視点と機能的視点を合わせて調整します

 

例えば、

「背が高く見られたい」、「ピッタリした細身が好き」といったあなたの趣向性。

「左右の腕の長さが違う」「座って食事をしてもきつくないように」といった機能性。

これらあなたの希望と特徴を汲み取り、担当者のセンスと技術で型紙.2を作ります。

 

趣向性に関しては、あなたの好みが正解です。

お好きなように担当者と一緒に決めてください。

 

 機能性に関しては、確かなフィッティングの技術が必要となります。

ここではフィッティング技術について、3つのイラストで解説します。

・フィッティングのポイント

・フィッティングの問題が洋服に出る箇所

・フィッティングの問題がでる理由と合わせ方

 

 

【フィッティングのポイント】

あなたの体と洋服がしっかりシンクロしているか?

とくに重要なのは”袖の下カマ”、”股の付け根”の2箇所です。

 

 

 

 【フィッティングの問題が洋服に出る箇所】

体の曲面と洋服の曲面がシンクロしていない時、そのズレが洋服のシワとなって出ます。

シワが無くても着心地が悪いという影響がでます。

 

 

 【フィッティングの問題がでる理由と合わせ方】

・一番左の直立な体型の方を問題なしの体型=正体とします。

(実際はこんな直立な方はいませんが理解のために誇張します)

・直線的なスーツを青い線で記します。

(直線的なスーツは安価に作る事ができます)

 【軸のズレ】

直立的な体型の方が直線的なスーツを着ると問題は出ません。

しかしほとんどの方の軸は湾曲しているので、体が青い枠から出ているのが分かると思います。直線的なスーツ(青枠)を着るとズレが多きくなりシワとなって洋服に出ます。着心地が悪く感じます。

 

【袖位置のズレ】

ほとんどの方が肩のバランスで左右差があります、アームホール(袖付けまわり一周)の位置が上下にズレています。ここをシンクロできるかどうかがフィッティングにおいて重要なポイントです。

 

【ピンポイントのズレ】

赤い部分のように人によって体のポイントが大きく出ています。直線的なスーツ(青枠)から出ている部分はもろに洋服に当たり不快です。

 

【合わせ方】

青い直線的なスーツではなく、赤い線のような湾曲したスーツは体にぴったりとシンクロし最高の着心地となります。

一方で、大で小を兼ねるような合わせ方(大きい直線的な服でカバーする)は着心地が悪いという事がイラストでご理解いただけると思います。

 

 

 

 

このフィッティングでモノサシとして必要となるのが、あなたに合わせる服で二種類存在します。

・ゲージ服(すでに完成しているハウスモデルのサンプル)

・仮縫い服(あなたが選んだ生地を裁断し簡単に縫い合わせた服)

 *仮縫い服がどのような服か知りたい方は動画をご覧ください➡仮縫い服/手縫い

 

ゲージ服のメリットはあなたが完成状態を注文日にだいたい把握できる事。

フィッティングにかけるアポイントが一回で済む事。

簡潔な工程なのでそのぶんスピードが早く価格が抑えられること。

デメリットは実際に買う生地で体感できない事、補正限界がある事。

 

仮縫い服のメリットは作り手があなたに合わせてとことん調整できる事。

デメリットは何度かアポイントが必要な事、それにより製作工程が増え時間がかかる事、高価になる事。

 

型紙を調整する時の方法は大きく分けて3つあります。

1.補正限界あり/着丈、袖丈の縦丈、ウエストなど横幅の調整までをCADで調整可能。

2.補正限界あり/1の要素に加えて怒肩、撫肩、屈身、反身体型などをCADで調整可能。

3.補正限界なし/手で型紙を引く事により左右差やカーブの角度など制限無く調整可能。

 

 

CADはコンピュータエイデッドデザインの略で、型紙操作をコンピュータソフトによって管理しPC画面上で操作できる方法です。

メリットはスピードが速い事と工程が少ない事で、価格を抑えられます。

デメリットは担当者に完璧なフィッティングの技術があったとしてもCADのできる補正限界を超えた細かな調整ができません。

手で型紙を引く場合は担当者の思いのままに操作調整できますのでとことん拘った型紙.2を作る事ができます。

デメリットは時間がかかり、工程が増える事で高価になります。

 

【ポイント/仕立てと担当者の関係】

この型紙.2の体型補正の力は大事です。

ただ、実践的にはハウスモデル(仕立て)をまず着て、フィッティング前の時点でしっくりくるかどうか?で大方の勝負ありだったりします。

なぜなら最初の大きなズレを調整するのは無理があり、最初にしっくりきていれば担当者の補正力があまり無くてもいいわけです。

あなたがハウスモデルを試着した瞬間に感じる第一印象を判断材料として大事にしましょう。

 

 

あなたがフィッティングで合わせる服を着た際に、リクエストがあれば担当者に投げかけましょう。

「私は袖が長い方が好き」

「この部分に違和感があるが調整できますか?」

など、

それを型紙.2に反映してくれたり、それが可能か不可能かを答えてくれます。

 

また、同じ店でリピートをする際に

「前の時よりもう少しここをこうしたい」

といった感じで型紙.2が進化する事も可能です。

型紙.2の情報は一度注文をしたお店であればCADで情報が保存されています、お店によっては紙で保管している場合もあります。

 

 【攻略ポイント!】

ご自身の用意したスーツを見ながら注文服CHECKシート.1(スーツ)の右上スーツ(フィッティング後)のイラストにマークを入れて下さい。

皆様は技術者でないので解決方法まで知る必要はありません。

感じた事をCHECKシート.1にマークして問題の解決は担当者にご相談下さい。

 

 

 

次項に進む➡第二章-③-3.縫製の質/縫製技術

 

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